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2007.07.06

●何重もの罪

 冤罪の罪深さは今さらいうまでもない。冤罪は、少なくとも次の3つの点で、許されない誤りである。

1.無実の者を罪におとしいれる
2.真犯人を追及する機会を逸する
3.1と2の過程で税金を無駄遣いする

 中でも、1の罪深さは計り知れない。被害者とその関係者にとっては、2も許し難いことだろう。犯罪者を野放しにするという意味では、被害者でなくても許せない。

 そして3。上記の中では一番どうでもいいことではあるが、たとえ自らに降りかからなくても、冤罪はわれわれ全員に不利益をもたらしていることはわかる。

 鹿児島での選挙違反「事件」(=事件そのものがなかったようだ)や富山での強姦事件など、つい最近でも冤罪が明らかになった事件がいくつかある。「痴漢冤罪」事件も多数起こっている。
 驚くのは、捜査員(警察官たち)が、冤罪だとわかっていてすら、無理矢理証拠をでっち上げたりまでして無実の者を刑務所へ送りこもうとするという、戦慄すべき事実だ。それでクビにもならないのだから、もはや、この世の終わりかと思わせる。

 有名な袴田事件では、とうとう、一審の死刑判決に心ならずも名を連ねた判事本人が、裁判開始当初からずっと無罪の心証を持っていたことを告白し、再審請求を支援するに至っている。
 そんな中、事件から41年、死刑判決確定からでも27年経つのに、袴田氏はまだ獄中にある。

 刑事裁判には「疑わしきは罰せず」という大原則がある。いくら疑わしくても、犯罪の証明がなされなければ、罰してはいけないのだ。

 だが、この言い方は誤解を招く。上に挙げた3つの事件では、そもそも疑わしくすらないのである。刑事司法の定石に則って「無罪」と判定すべきなのではなく、そもそも「無実」なのだ(もちろん、神ならぬ身の私にわかることではありませんが、少なくとも富山の強姦事件は真犯人も挙がり、「無実」で疑問の余地はないようです)。

 英語ではよく、beyond all reasonable doubt という言い方をする。あらゆる合理的な疑問を差し挟む余地なく、絶対に罪を犯したと断定できるときにのみ、有罪判決が出せる、ということだ。

 本日、一審の無罪判決が破棄され、名古屋高裁で懲役17年が言い渡された豊川市の幼児殺害事件の場合、「無実」かどうかの判断は難しいらしい。

 しかしながら、物的証拠・直接証拠が何もないことは判決も認めている。車に乗せて幼児を運び、その幼児が車内で泣き叫んだというのに、車の中に髪の毛一本残っていないというのだろうか?

 「疑わしい」のかもしれないが、犯罪の証明がないのは明白に思える。reasonable doubt(犯人ではないと思わせる合理的な疑問) もある。
 そもそも、一審で無罪判決が出ているということは、そういう判断をした専門家がすでに存在するということだ。「やっていないかもしれない」被告人を罰することは正義に反する。

 刑事裁判の原則に従って、無罪判決が出た場合は検察の上訴を認めていない国も多い。だが、日本の場合は、今日のような大逆転劇が生じることがある。

 想像してみて欲しい。

 あなたは無実の罪で裁判にかけられ、一審で無罪判決を受けた。その後、やっとの思いで派遣社員の職を見つけ、社会で普通に?生活していた。ところが、一転、懲役17年!を宣告されて、再び獄に繋がれてしまった・・・
 その時の悔しさと哀しさと怒りといったら、気が狂ってしまうか憤死してしまうかというレベルのものだろう。

 もし被告人が犯人ではなかったとしたら、司法は最初に書いた3つの罪を犯したことになる。2と3、特に2は、被害者にとっても許し難いことであるはずだ。

 ただし、もし被告人が犯人であったとしたら・・・

 それでも、そのことが証明できない以上、刑事裁判の原則に従って、判決は無罪であるべきなのだろうと思う。一審で無罪判決が出ているということは、とりもなおさず、犯罪の証明に疑いを差し挟む余地があった、ということなのだから。

 われわれは神ではない。それは裁判官とて同じことである。とても残念なことだけれど。

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