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2008.02.09

◆雪景色

 朝早く起きて、高校を受験する息子をスクールバスの乗り場まで送っていく。

 外から心臓の音が聞こえるほど緊張している。

 「気楽にやれ。適当でいいから」と、いくら繰り返しても無駄なようだ。
 「受験票忘れたって、書くもん持っていかんかったって、センセにいうたらなんとかしてくれるから」(してくれるんだろうな・・・)

 ___

 昨夜は、「ぼくの人生で最初の試練や」とか言っていた。どこでそんな表現を覚えたんだろう? 似たようなことを言ったことがあったっけ?

 「お前の試練は生まれる前から始まってたし、生まれてからも大変やった」と言っても、
 「そんなん、ぼく、覚えてへんもん」という。まあ、それはそうだ。

 でもそもそも、君が母親のお腹の中に存在しはじめたこと自体が奇跡的だったのだ。なのに、まもなく流れ出ようとした。その後落ち着いたかと思ったら、結局、お腹の中の後半を大学病院のベッドの上で過ごすことになった。
 体は小さいし逆子だ。予定日を過ぎても出てこない。帝王切開で取り出された時には脚が歪んでパズルのように組み合わさり、顔面神経が麻痺していた。

 母親の実家では一晩中ぐっすり眠って朝遅くなっても目を覚まさず、このまま死ぬんじゃないかと考えもした(「息してる?」「うん、大丈夫みたい」)。
 ヘソの緒が取れた後がいつまでもジュクジュクし、小児科医に連れていった時には「何でもっと早く連れてこなかった !?」と叱られた。

 大学病院通いもしばらく続いた。生後半年を過ぎたころだろうか、重大な疾患を疑われて、頭部のCTスキャンを取った。こんなに小さい子を睡眠薬で眠らせた上、大量の放射線を照射して大丈夫なのか?
 大人サイズのスキャナの上に横たえられた乳児は、いかにも儚げだった。

 寝返りも這うのも立つのも歩くのも遅い。賢そうな顔をしているのに、2歳を過ぎてもしゃべらない。いくら何でも異常ではないのか。

 まあしかし、もっと悪いことになる覚悟は妊娠初期からできていた。何があってもそれほど深刻には受け止めず、日々を楽しく過ごしていた気がする。

 それに、結局のところ、引っ込み思案だったり運動ができなかったりいじめられたり成績が悪かったりはしたものの、どちらかと言えばむしろ健康な優しい子に育ち、心配することも減ってきた。

 目が悪くなってきたこと、体が固いこと、花粉症であること(どれも遺伝だ)などを除くと、気になるのは友達関係と成績のことぐらいになった。
 まあ、誰にでもある取るに足りないことだ。

 15年前を思えば、人並みに高校受験に出かけたこと自体、信じられない気がする。
 ___

 息子を送って家に帰るまで、一滴の雨もひとひらの雪も降らなかったのに、まもなく雪が降り始め、お昼にはアスファルトの上にまで積もって雪国のような景色になった。

 受験会場に入る時にはほとんど雪の影すらなく、終えて出てくるころには一面の雪景色になっているはずである。息子にとっての「初めての試練」は、忘れられないものとなるだろう。

 母親は仕事に出て、父親は気楽に映画を見ている。偶然だが、全編アラスカの雪景色の中で繰り広げられる、ペーソスの効いたコメディサスペンスだった。

 早めのお昼にはスパゲティを作って食べた。午後は何の映画を見よう?

 この雪だと家人はたぶん帰って来られない。息子が帰ってきたら一緒に迎えに行こうか。

 今年初めて、スタッドレスが役に立ちそうだ。

(The Big White, 2005 U.S.A.)

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