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2015.07.26

●それでも事故は起こるので・・・

 費用と免許の面から単発飛行機(エンジン/プロペラが一つの小型機)しか飛ばせない自家用パイロットの間では、「単発機は飛ぶ前からエマー(ジェンシー)だから」というジョークが、自嘲と自戒とを込めた口調で交わされる。

 エンジンが2つある双発機は、どちらかのエンジンが故障などで動かなくなっても、残った一つのエンジンだけで飛行を継続し、着陸が可能なように設計されている(2月に台湾で起こった墜落事故は、操縦士が誤って正常な方のエンジンを止めてしまったことが原因だということが明らかになった)
 それでも、エンジンが一つ止まると、エマージェンシー(緊急事態)を宣言し、一刻も早く最寄りの空港に着陸することが要請される。

 エンジンが一つ正常に動いていて、特に危険なく飛べて降りられる飛行機でもエマージェンシーなのだから、エンジンが一つしかない飛行機は飛ぶ前から緊急事態じゃないか、というのが冒頭のジョークの趣旨だ。

 だから、パイロットは飛行前点検を怠らない。

 日常的に自家用車に乗っている人で、乗車前にオイルやら冷却液やらファンベルトやらの点検をしている人はまずいないと思うが、飛行機の場合は、チェックリストに従って、かなりの数の点検を必ず行う。

 以前乗っていたセスナ172のチェックリストを久しぶりに引っ張り出してみたところ、
  ・操縦席に落ち着くまでに50項目ほどを点検
  ・エンジンをかけるまでに20項目弱
  ・エンジンがかかってから7項目
   ○管制塔に移動許可を要請
  ・滑走路に向かいながら5項目
  ・滑走路手前で停止して20項目弱(エンジンランナップ(≒試運転)を含む)
   ○管制塔に離陸許可を要請
  ・滑走路進入前に5項目
というように、実に、のべ(=一部重複して複数回)100を超える項目について、Set, Checked, Free, Both, On, Off, Rich, Cold, Locked などと唱えながら、そして時には CLEAR ! などと恥ずかしげもなく叫びながらチェックする。

 そうまでして、何か異常があることは滅多にない。
 実際、私ですら一連のこの手続きを百数十回やっているが、何か異常があってエプロン(駐機場)に戻ったとか、あるいは離陸滑走を中止したなどということは一度もなかった。
 それでも、次回飛ぶときには、また同じ手続きを繰り返す。「まあ大丈夫だろう」などと手順をスキップすることはない。

 だって、飛ぶ前から緊急事態なんだから。
(双発や多発の飛行機でも、チェックの手を抜くことはないだろうと思います。念のため。)

 ただ、もちろん、単発だからといってほんとに「飛ぶ前からエマー」だというわけではない。

 セスナ172のような小型機でも、燃料系統・発電系統・点火プラグその他、可能なものはほとんど二重化され、自動車のエンジンのように頻繁に?止まることはないようにできている。
 一方で、機構がシンプルな分、逆に信頼性は高い。とにかく停止しにくいことを第一に設計されているのだ。
 ___

 それでも事故は起こる。

 パイパー社のマリブ・ミラージュによる今回の調布の事故でもっとも不幸だったのは、地上に巻き添えを出してしまったことだ。
 小型機が関連する事故は少なくはないが、地上の人命を奪ってしまった事故というのはちょっと記憶にない。

 報道から判断すると、何とか住宅地を避けられなかったのかという思いは残る。
 もちろん結果論だが、左旋回せずにまっすぐ飛んでいれば、中央自動車道手前の草地に不時着できた可能性も高い。そうすれば、かなりの確率でだれも死なずにすんだだろう。
 一縷の望みを託して、絶対にやってはいけないと教えられる、滑走路への帰還を試みたのか、それとも、揚力がなくなる失速を起こしてそもそも操縦不能だったのか・・・

 いずれにせよ、落下地点から計算すると、離陸から墜落までの時間はわずか30秒以下だろうから、冷静な判断の余裕もなく、墜落してしまったのかもしれない。

 気になるのは、先に移動していた飛行機を追い越して、滑走路手前でのエンジンランナップ(≒試運転)を行わずに離陸していったという点だ。追い越された飛行機のパイロット(元日本航空の機長)が詳細に証言しているので、それは間違いないだろう。
 もちろん、本来は滑走路手前でやるランナップは、エプロンで?すませていると運航情報官(都の委託職員だから「官」ではないけれど)に無線で申告しているということなので、それはその通りだと信じたい。

 いずれにせよ、何らかの判断ミス・操縦ミスがあったとしても、根本的にはエンジンの不調が原因だろう。

 現役の単発機パイロットには、「飛ぶ前からエマー」のジョークを、自戒を込めてもう一度思い出してもらいたい。
 ___

 末筆ながら、亡くなられた方々に深く哀悼の意を表するとともに、怪我をされた方々の一刻も早いご快癒をお祈り申し上げます。

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