★ガンガン言う医者
生まれて初めて、大腸の内視鏡検査を受けた。
終わってみると2度と嫌だという感じの検査だが、やる前はほんの少しは楽しみだった。なんであれ、新しい経験というのは好奇心をそそるのである。
(お食事中やお食事前にお読みになっている方は少ないかと思いますが、もしそうなら以下はお読みにならないことをお勧め致します)
朝8時台に病院に行き、検査が始まるのは午後2時。その間、わけのわからない透明の液体を2リットルも飲まされ、ひたすらトイレ通いをさせられる。なんでも、「体内には吸収されない液体」なのだそうである。
前夜から絶食しているので、3回目には出るものはその液体ばかりになり、無色透明、きれいなものだ。消化管には何も残っていないということになる。
それでも、その後さらに数回、その液体の排出にこれ努めなければならない。ホースの先をつぶした水道のような勢いで噴出する。
それこそ3回目だったか、たぶん20年ぶり(その時はその後入院した)に経験するその感覚に、思わず笑いが漏れてしまった。
苦笑でも失笑でもない。
それに近い要素もあるが、むしろなんかこう、自分というか人間というか、その存在の間抜けさをいとおしく感じるような、微笑ましい気持ちであった。
検査は、酸素飽和度と血圧と脈拍をモニターし、点滴を打ちながら行う。なかなか大ごとなのである。
痛みなどぜんぜん予想していなかったのに、一度だけ激痛が走り、思わず痛い痛いと声を上げると、医者は「この程度で」とあきれたような口調で言い、麻酔薬の点滴を看護師に指示した。
最終的な結果は病理検査を待たねばならないが、まずまちがいなく何でもないでしょうというような診断だった。
同じ検査を受けた人が会計をしていて、3万円と言われて驚いていたので、自分もそうなのかなと思っていたら1万5千円であった。ポリープや初期ガン切除だと前者、生検だけだと後者の値段になるらしい。まったく正常なら1万円前後とかのようだ。
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今日の医者は、年齢は私と同じぐらいかと思うが、自信に満ちあふれた偉そうな医者だった。ここを紹介してくれた医師は、人のいい、少し気弱そうに見えるやさしい人だった。
そんな正反対の2人に共通する点がひとつ。
診察室での会話の当初から、やたらに「癌(ガン)」という単語を連発することである。
こんな検査を受ける羽目になった理由は、便潜血検査で陽性が出たからだ。だが、陽性の人のうち、実際にガンであるのは約3%に過ぎないというデータがある。今日の説明でもそうだった。
そんなとき、あなたが医師だったら、患者に「ガン」などという単語を使うだろうか。
もし私が検査する病院を紹介した医師ならこう言う。
「特に問題はないと思われますが、何か悪い病気が隠れていたりすると困りますので、一度きちんと検査をなさってみてはいかがでしょうか」
それで患者が検査を渋ったらまた次の台詞を考えればいいが、こちらは検査する気満々なのである。
検査を担当する医師ならこう言う。
「念のために検査を致しますが、ほとんどの患者さんには重い病気は見つかりません。仮に見つかっても、進行も遅く対処もしやすい場合がほとんどですので、まずは気持ちを楽になさって下さい。」
ところが、この病院が素晴らしいと紹介してくれた医師は、「友人が大腸ガンだったんですが、検査したお蔭で・・・」とか、聞きもしないのにガンの可能性をやたら強調するし、実際に検査を担当した医者などは、開口一番、
「大腸の内視鏡検査の目的は、大腸ガンを発見することです」ときた。
医学部の教育はいったいどうなっているのだ。
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ほとんど気にしていなかった私でさえ、検査が決まってからのこの1か月、ガンやら死やら人生やらという単語に少しは敏感になっていたし、そんな中、検査の2日前に同世代の知り合いの訃報を聞いたりして(当然のごとく死因はガンである)、微妙にナーバスになっているのである。
あんなにガンガン言われたら、それだけで精神的に参ってしまう人だっているだろう。
医学は進歩しているのかもしれない。
しかし、年齢から言っても立場や技術から言っても完全に指導する側である医師2人が、ぜんぜん違うタイプにもかかわらず、患者への配慮なく同じように「ガン」を連発するようでは、医療現場におけるコミュニケーションの未来に希望が持てなくなってしまう。
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