■忘れる動物
職場へ向かう車の中でカレンダー表示が目に入り、今日が9・11であることを知った。
ああ、今日がそうなんだと思ったが、朝、新聞をわりと丁寧に読んでいるにもかかわらず、その時には気づかなかった。
家に帰って調べると、1985年の日航機墜落と同様、今年は朝刊に1行の記事も載っていないのだった。
夕刊も、記事としてはゼロ。一つだけ、リービ英雄に関するコラムが9・11関連だった。
(朝夕刊とも、見落としていたとしたらすみません)
まあ、アメリカ東海岸は、こちらが夜の今ごろ9・11の朝を迎えたわけだし、日本の新聞にそれなりの記事が載るのは明日の朝刊か夕刊ということになろうか。
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一方、3・11のほうは、1年半という中途半端な日であるにもかかわらず、3ページぜんぶを使ったカラー特集があったほか、個別の記事やコラムもいくつかあった。
いや、もちろん、文句はない。何といっても9・11は3・11の10年半も前の事件であるし、後者は自国で起こった悲劇でもある。
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この種のことについて書こうと思ったのは、帰国直後に遡る。
帰ってきてすぐ、「大震災」とか「原発」とか「放射性物質」とか「節電」とかがどんどん耳目に飛び込んできたのだが、申し訳ないことに、旅行中、それらのことをまったく思い出しもしなかったのだ。
旅行に出る直前までは、毎日そんなニュースを見たり聞いたりしてそれなりに考えたりもしていたのに。
ほんとに、まるっきり、ぜんぜん、ちらりとも頭をかすめすらしなかったと思う。
その他の仕事上や日常のこまごましたことは、旅行中もいろいろ頭から離れず、はなはだしきは夢の中にまで出てきて私を悩ませたにもかかわらず、である。
震災の影響で、東京電力株で100万円以上の損失を出し(20年以上にわたって株主総会で毎年原発反対の意思表明をしてきたのに)、毎月の給料だって何万円も減っているわけだけれど、結局のところ、自分は震災の当事者でも被害者でもない。
だから、ほんとに申し訳ないことに、一歩日本を出ると、「思い出しもしない」というようなことになってしまうのである。
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一方で、誤解を恐れずにいえば、忘れるってすごく素晴らしいことだなあと実感した。忘れてしまえば、なかったことと同じになる。
旅行の間にすら私を悩ませていたもろもろだって、忘れてしまうことができれば、思い煩うこともなくなるのだ。
人間は忘れる動物だ。
だが、忘れたいと思うようなことは、往々にして忘れることができない。
忘れたいことを意図して忘れることができたらどんなに幸せになれるだろう。
忘れてはいけないこともあるだろうけれど。
後記:本日(20120912)朝刊には1面の1/3ぐらいの特集記事がありましたが、その見出しは「色あせる9.11」でした。
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