■「車を動かしてください」
近い方の職場での会議を途中で抜け出し、遠い方の職場への会議に向かう途中、いわゆるゲリラ豪雨に襲われた。
道路はみるみる冠水、右側の車輪で派手な水しぶきを上げながらゆっくり走る。
過去の亡霊まで含む愚にもつかない顔ぶれが5人揃って記者会見をしているラジオ(だから間抜けな顔は見えない)を聞いていると、「番組の途中ですが」と、大雨洪水警報が発令された旨、放送があった。
これだけ降ってからなら、私でも警報が出せる。
職場に着き、まさかとは思いながら高台を探して車を駐め、トランクに置き傘している自分を呪いながら傘を取り出す間に、もうほぼ全身びしょ濡れになってしまう。
___
会議が終わると、雨は小降りになっていた。
階段を下りている途中、珍しく館内放送があり、車を移動してくれと言っている。今の職場とは30年以上の縁があるが、館内放送なんて初めて聞いたような気がする。
だれかが邪魔になる場所にでも駐めたのかなと思っていた。
建物を出て駐車場に向かうが、道がプールになっていて近づけない。
ほとんど利用したことのない別ルートからアクセスしようとしてドアを出ると、出たところの駐車場もプールになっていた。
そこにぽつんと1台だけ残った車のナンバーが、先ほど放送されていたものだった。
水没の可能性を考え、別の場所に動かすよう促す放送だったらしい。だったらそう言わないと、緊急性が伝わらないと思った。
それはそれとして、やっぱりこのルートもダメ。3回目はちゃんと考えて、遠回りだが確実に行けるルートをとった。
われながら先見の明、もちろん、高台に駐めた車は無事である。
しかしまさか、ほんとにプールになるところがあるとは思っていなかった。
下にあったさっきの車もいなくなっていたが、あの程度なら車には被害はないと思うものの、乗り込むためにはプールの中を歩いて行かなければならない。
車止めが完全に水没していたし、水深は25センチぐらいあったのではないか。
そんな目に遭わなくてほんとによかった。
職場では数年前、地下が水没した事例があったのは聞いている。だが、自分でプールを目にしたのは初めてだ。
以前はなかったタイプの大雨が降るようになっているというのは、おそらくは正しいと思う。
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