●茶道が抹茶を遠ざける
珍しく京都へ出たついでに、野点用の黒楽(というらしい)の抹茶茶碗と茶筌と抹茶を買ってきた。
先月、高級?温泉旅館に一泊したとき、部屋に入ると仲居さんが抹茶を点ててくれ、そのことに妙に感心したのが尾を引いているのだ。
家へ帰ってネットで点て方を調べ、一服点ててみると十分なおいしさである。
これまで、人の点てた抹茶をいただいたことは数回ある(たぶん10回もない!)が、自分で点てたのは初めてだ。
二服目は調子に乗って?点ててからマグカップに移して抹茶ラテにした。スターバックスのも、こんなふうに作ってるのかな?(まさか、ね)
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それにしても、どうしてこの年になるまで抹茶をほとんど飲まなかったんだろう?
それにはおそらく、茶道が影響している。
抹茶には、お点前がわからない者が飲んではいけないような妙な威圧感があるし、点てる方が着物を着ていたり作法を教えたりするので、そういう飲み物だと思ってしまうのだ。
かつて小林秀雄が「真贋」というエッセイの中で次のようなことを書いていた。
ひょんなことから高価な彫三島の茶碗を手に入れたのだが「私は茶の方は不案内であるから、それで紅茶や牛乳を飲んでいる」というのだ。
小林ほどの「文化人」にしてそうである。
いや、抹茶茶碗で紅茶や牛乳を飲むのはべつにかまわない。だが、それほどの自由人でありながら、「茶の方は不案内であるから」飲まないというのには驚かされる。
世の中に、「コーヒーの方は不案内だから飲まない」とか「日本茶の方は・・・」とかいう人がいるだろうか。
そもそも、「紅茶や牛乳を飲んでいる」という小林は、それらには明るかったのだろうか。
もちろん、紅茶や牛乳に「不案内」であっても、人はふつうに飲む。珈琲道や紅茶道や牛乳道などというものは存在しない。
そう、ひとり抹茶のみが、飲む者を妙に構えさせるのである。
だが、実はなんということもない。抹茶の粉末を茶碗に入れ、80℃のお湯を注いで茶筌でしゃかしゃかとかき回せば、立派な抹茶のできあがり。
案内も不案内もなく、ふつうに楽しめる。
そのままではおいしくない人がいたら、少し砂糖を入れたっていいし、何ならラテにしてもいい。
三千家の家元なんかが聞いたら何とおっしゃるかは知らないけれど。
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・・・というようなことを書いている私にしたって、これまで抹茶を点てたことはなかった。
やはり、茶道が抹茶を遠ざけているからである。
そのせいで消費の伸び悩む抹茶は、一足飛びに、できあいの「抹茶ケーキ」や「抹茶ソフト」や「抹茶ラテ」なんかに販路を広げている。
だが、ふつうに抹茶茶碗と茶筌を使ってしゃかしゃかとやる「お薄」なんかは、茶道の軛(くびき)から解き放つだけで、われわれの日常的な飲み物になるはずだ。
これからたぶん、私も毎日のように(というのはちょっと大袈裟かな)抹茶を喫することになると思う。
「一服」とか「点てる」とか「喫する」とか言ってるからだめなんだろうけれど・・・
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