■英語の通じる国、通じない国
アイスランドほど誰もが英語を話せる国を他に知らない。
あ、イギリスとカナダとオーストラリアは除く(ニュージーランドとかには行ったことがない)。
でも、アメリカではしばしば経験した "No English." は一度もなかった。
旅行者である私が話す範囲の人で、明らかに英語ができないと思われたのは、自分で編んだセーターを売っていたおばあさんだけであった。何を言っても、"It's very nice." としか言わなかった。それで、ふだん服なんか買わない私に一生で一番高いセーターを買わせたのだからたいしたものだ。
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旅行者としての個人的な経験からだけだが、アメリカよりもアイスランドの方が英語が通じる率が高いというのはすごいことだと思う。
年配の人ほど発音に癖があって聞き取りにくい感じはしたが、どこに行っても誰と話しても、"Do you speak English ?" みたいな手続きなしに、いきなり英語で会話を初めてお互いに何の不自然さも不自由もなかった。
先方も、外国人がアイスランド語を話すことなど、ハナから期待していない。
「さようなら」だけは何度かアイスランド語で言ったのだが、むしろ戸惑われるのがオチで、軽い驚きとともにアイスランド語で挨拶を返してもらえたのは一度だけだった。旅行者は、その程度のアイスランド語すら話さないのがむしろふつうらしい。
聞くところによると、北欧は全般にほとんど誰でも英語を話すらしいのだが、どうしてなんだろう。北欧諸語よりは英語に近いと思われるドイツ語地域ですら、こんなにみんなが英語を話すなどということはない。
以前、スウェーデン人に聞いたところによると、「小さいころからずっと英語のテレビを見ているから」ということだったが、ドイツ人は見ないのだろうか。
母語の(政治的・経済的・文化的)力が相対的に弱いことが外国語の習得にプラスに働いているのかもしれない。
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いうまでもなく、日本はもっとも英語が通じにくい国の一つである。その一番の理由は、日本語が英語とはかけ離れた言語であることだろうが、他のアジアの諸言語だってほとんどはそうである。
にもかかわらず、21世紀になってもダントツに英語ができないのは、習得する必要がないことが大きいだろう。日常生活から芸術や最先端科学まで、すべて自国語でやっていけるという国は多くない。
「最先端科学まで」と書いたが、最先端科学をやっていて英語ができない人というのは、ほんとうはちょっと想像しがたい。
だが、ノーベル賞の授賞式が初めての海外渡航で、受賞スピーチでしゃべった英語は "I'm sorry, I can't speak English." だけだという益川敏英さんの例が示すように、日本では英語ができなくてもなんとかやっていけるのである(ノーベル賞まで取ったのだから、「なんとか」ではなく「十分以上に」かもしれない)。
そう考えれば、「もっとも英語ができない国(の一つ)」というのは、もっとも豊かな母語環境に恵まれた国であることの裏返しでもある。
明治以来、いくら熱心に英語学習を推進しても、いつまで経ってもできるようにはなっていない。またぞろ、さらに英語教育を促進し・・・と拳を振り上げてみても、英語嫌いを増やすだけではないかと危惧する。
それとも、「グローバル化」する今後は、できるようになるのだろうか。ならないとは思うけれど、もしなったとしたら、それは母語の衰退と表裏一体のような気がする。
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