■阿蘇の陶芸家:工房 ゆう
2016年12月27日。せっかく阿蘇に来たのに、あいにくの天気。
震災の復旧が進んでおらず、阿蘇山上には北からしかアクセスできなくなっているということで、とりあえず、道の駅阿蘇まで来てみたものの、さて、この天気ではどうしようかなあというときに、ちょっと気になる焼き物を見つけた。
もとより、焼き物の趣味も知識もないのだが、ごくたまには、気に入って購うこともある。値段も安いし、これ買って帰ろうかなと思ってから、ふと、それよりもこの陶芸家を訪ねてみて、そこで買おうと思った。
動機はだから、「天気も悪くて他に行くところもないので」に近い。失礼な話である。
幸い、工房までは10kmもない。ただ、場所がわかるかどうかという不安を抱えつつ、スマホのナビを頼りに行ってみた。
近くに、うどん屋さんと季節料理のお店があるので(といってもそういうのがあることが信じられないような田んぼの真ん中です)、それらを目印にしながら進む。特に「手打ちうどん」の看板が役に立った。目指す場所は「季節料理 ふじ川」の向かいである。
このあたりのはずなのだが本当にあるんだろうか、仮にあるとしても、看板とかは上がっているのだろうかと不安を抱えていると、邸宅といってもいいような立派な門構えのお宅に「工房 ゆう」と書いた木の札がかかっているのを見つけた。
門は開いていて、中に車を駐める広さが十分あることは、外からでもわかる。行ったはいいが、駐車できるのだろうかという心配もしていたが、杞憂であった。
工房とおぼしき建物の戸も空いていて、「すみません、こんにちは」と声をかけながらおそるおそる中へ入る。出迎えてくれたのは、30代前半に見える若い陶芸家であった。
「あのう、ここはご実家なんですか」というのが、好奇心を抑えきれずに出た最初の質問だったと思う。貧しい陶芸家の工房にはとても見えなかったのだ。重ね重ね失礼な話である。
結論を言えば、大家さんの離れを安く貸していただいているだけということであった。
どうして道案内の看板を出さないのかと伺うと、「通りすがりに来られてもちょっと困るんです。わざわざここを目指して来てくださる方に来ていただきたいし、そういう方はちゃんと見つけて来てくださるんですよね」とのこと。
いやいや、諦めて去ってしまった人には会えないからでは・・・とも思うが、それは口に出さない。
ネットやSNSで広めてくださるのは大歓迎ということなので、お言葉に甘えてこうして記している。
さて、そこからは作品を見せていただきながら、いろいろとお話を伺うことになった。
「お邪魔してすみません、どうぞ、お仕事を続けながら」
だんだんと、職業的なインタビューをする感じになってくる。そうして伺ったことは、とてもここには書き切れない。
「大学はまあ、一応行ったんですけど、落ちこぼれてついていけなくなって」とおっしゃるので、それ以上詮索しないでいたところ、壁に貼ってあったポスターに「九州大学工学部機械航空工学科に進学した」とあるのに気づいた。
のちにまた大学の話になったとき、実は大学院にまで進んでいたことがわかる。そういう感じの人である。
釉薬は、自分で刈り取ったススキを焼いた灰から作る。あるいは、昨秋、36年ぶりに爆発的噴火を起こした阿蘇の火山灰を利用する(←リンク先はインタビュー動画で、音が出ます)。
作品としては、せっかくなので、阿蘇の荒々しさや溶岩を思わせる焼き物を作りたい。でもやっぱり、焼き物を買ってくださるのは女性が多く、「カワイイ」を求められるので、個性や思いを殺してそういうものも作っている。
私が買ったのも、結局は溶岩のモチーフとは関係のない、深みのある青を基調とした湯飲み茶碗であった。
会計をしながら年齢を伺うと、実は不惑をいくつか越えているという。若く見えますねと驚くと、「この世界で若く見えるのは・・・」と苦笑なさる。
そこにあった、明らかに「作品」と呼ぶにふさわしい花挿しに話題が及ぶと、「これは、壁を表しているんですよ、人種の壁・民族の壁・宗教の壁・・・ それにこういう、風穴を開けているんです」という。
そしてとうとう、「作品を通して世界平和を訴えたいんですよね」とまで言ってくれた。
「いや、もちろん、だからなんだ?って話なんですけど」と付け加えるのは忘れない。
私だって、ふだんそんなことは人に言わないが、やはり仕事を通して訴えているつもりなのはそういうことである。
それを伝え、薄暗い阿蘇の工房の片隅で、束の間、2人で世界平和に思いを馳せた。
もとより、だからどうした、という話であることは承知しつつ・・・
帰り際、途中でも勧めてくれたカフェを、今度は熱心に勧める。私が大阪から来たというと、「大阪から来た夫婦がやってらっしゃるお店があるんです」といって始まった話題だ。
コーヒーは飲まないようにしているし、その時はまず確実に行かないだろうと思っていたのだが、社交辞令として名前や場所を確かめた。
だが、ちょうどお昼も近く、そばのうどん屋さんの駐車場で開店を待っていても休みのようだったので(翌日、実は開いていたことがわかったのだが)、結局そのカフェに向かうことにした。調べると、ランチも食べられることがわかったのだ。
確かに素敵なカフェだったのだが、工房の主とはちょっと方向性が違う感じで、どうして熱心に勧めたのかはわからない。
カフェについてはまた別の機会に。
___
工房 ゆう:田中耕治さん
〒869-2613
熊本県阿蘇市一の宮町中通1707
駐車場の心配はまず必要ない。
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