★それぞれの不幸
糖尿病を患い、脳梗塞の後遺症に悩まされながら肝臓がんを生き延び、腰椎を圧迫骨折してパーキンソン症候群でもある母親が、また入院したというので、先日見舞いに行ってきた。
今度は肝性脳症とやらで、血中のアンモニア濃度が高くなりすぎて意識朦朧となったという。それとは別に、肋骨も3本折れているらしい。
当初は意識不明に近かったというのだが、訪れたときにはすぐに私を認識し、「あんたどこから来たん?」に始まる会話も一応成立して、ひと安心した。
だが、ベッド脇には導尿のバッグがぶら下がっている。大の方はオムツだということが後にわかった。
しかも、譫妄というのだろうか、被害妄想のようなものがあって、会話は成立するものの、とても正常とは言えない。
それでもまあ、話ができるまでには回復しているということのようであった。
そんな状態の母親を退院させる方向へ持っていきたい病院といろいろやり取りして、夕方には医師と話をすることもでき、もう1週間様子を見ることにしてもらった。
肝硬変がかなり進んでおり、新しく処方されたパーキンソン症候群の薬がうまく代謝できなくて、成分の血中濃度が上がりすぎたのではないか、というのが医師の見立てであった。
「さあ、帰ろか」と訳のわからないことを言う母親に、「何を言うてんねや、帰れるわけないやろ」とマジギレする父親。
あとで、「認知症の症状に逆らってはいけない。「そうやなあ、帰りたいやろなあ。わしも帰らしてやりたいんやけどなあ」とでも共感的に言っておけばよいのだ」というようなことを話す。
でも、父親の方が母親と対等に向き合っているような気がして、少し後ろめたかった。
なんといっても、介護しているのは90歳に近い父親で、こちらは無責任な傍観者に過ぎないのだ。少なくとも今のところは。
___
その夜も次の夜も、義母から定時連絡があった。
一年ほど前に夫(私から見ると義父)が入院してからひとり暮らしになり、孤独死して発見されないことを恐れて、生存証明のために毎日家人に電話してくる。
昨年末に夫を亡くしてからは、以前にも増して厭世的になった。「何もすることがない。テレビ見て寝るだけや。長生きしすぎた。生きててもしょうがない。」
だが、その義母は、いろいろ体の不調を抱えているとはいえ、まだ一人で買い物にも行けるし、身の回りのことも自分でできるのである。
ただ、かつてのように俳句や俳画や韓流ドラマを楽しんだりする余裕は、もうどこにもない。
___
私は今日、京北に桜を見に出かけた。なんということのない年中行事だが、考えてみれば幸せなことである。
毎年訪れている欝櫻寺で写真を撮っていると、車が1台やってきて、歩くのもやっとという感じの老人が、女性2人に両脇を抱えられて、寺の中へ入っていった。
後に続く奥さんが問わず語りにいろいろ話してくれる。
それによると、老人は元大工の棟梁で、この欝櫻寺も建てたのだという。ダムの底に沈んだ集落がこのあたりに移転しており、このお寺も移築されたものだということを初めて知った。
「この辺のおうちもいくつも建てたんですけどねぇ。今はもうあない(ああ)なってしもて施設に入ってるんですけど、今日は嫁と娘にこないして連れてきてもらいましてん。あないなってしまうと、もうほんまにあきませんなあ・・・」
「大変ですねぇ。うちも母親が入院してまして・・・」
「入院やったらよろしいがな。施設に入らなあかんようになったら、もうほんまに・・・」
「いや、まだ何とか歩けて桜が愛でられるのだからいいじゃありませんか。うちの母親は車椅子に乗せても病棟の4階から出してもらえませんでしたよ。」などとは、もちろん言わない。
そういうふうに思ったわけでもない。
ご老人は、枝垂れ桜の下に座って上機嫌で歌っていた。若い2人がはしゃぎながら交替で一緒に写真を撮っている。
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状況は違うが、みなそれぞれに不幸である。そしてまた、それぞれに幸福だとも言える。
だれがより不幸か幸福か・・・などと考えてみても、詮のないことだ。
「生老病死」とはよく言ったものだなあと思う。だれもがその四苦を抱えている。
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