◆年金不足は「運用」や「投資」で補えるか
金融審議会がまとめた 「市場ワーキング・グループ」報告書を6月3日、金融庁が公表した。
そこに、「老後の年金だけでは赤字なので2000万円ほどの貯蓄が必要だと書いてあった」という話が大きな話題を呼んでいる。この部分、正確には以下の通りだ。
夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300 万円~2,000 万円になる。
担当の麻生大臣は、(本人の国会答弁によると)中味を読みもせずに「世間に著しい不安とか誤解とか」を与えているので「正式な報告書としては受け取らない」という。
当初は、したり顔で「人生設計を考えるときに、100まで生きる前提で計算してみたことあるか」「年金プラスいろいろなことを考えにゃいかんという話だ」とニヒルに説教していたくせに、選挙が近くて影響がありそうだとわかると見事な手のひら返しである。
だがまあ、自分が諮問した報告書を受け取らないというのは前代未聞だとしても、ぎりぎりのところで土俵に残っている感はあった。
さらにどうしようもなかったのは、自民党の森山裕国会対策委員長の「この報告書はもうないわけですから。なくなっているわけですから」というとんでもない発言だ。
今でも金融庁のWebサイトで全世界に向かって公表されている報告書が「もうない」のである。放っておくとほんとうになくしかねないので、私も急いでダウンロードしてざっと読んでみた。
まあ、いずれにせよ、いったんネットに出たものは決してなくならない。愚かな「大本営発表」がむしろ「拡散」につながったのは皮肉なことだ。
時代が違うのである。
日本という、現在でもまだ人口で世界10位前後、経済規模で世界3位の大国を運営しているのがこういう連中だという事実には、ほんとうにげんなりする。
こういう輩を政治に送り込んだのは決して自分ではないのだが、現実問題として「民主的」な選挙を繰り返して政権の中枢へと登っていったのだから、私もその一員である国民のせいだと言われればその通りなのだろう。情けない。
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これから老後を迎える人々の生活費が年金だけでは賄えないというのは、この報告書があろうがなかろうが、もはや周知の事実である。
だから、少しでも貯蓄を増やしておこうと、多くの人が消費を抑えて貯蓄に励んでいる。それで市場にお金が回らないという悪循環を起こしているのが現在の日本経済だろう。
もちろん、それ以前に、余分な消費に回すほどの収入がないという人の数も増えている。
金融庁の報告書を読んでも、特に目新しいことは何も書いていないので、政府も恐れることはないと思うのだが、それでも担当大臣の麻生さんが、読んでいないのに!中味が気に入らないから受け取らないというのがこの国の政府のレベルなのだ(当初は気に入っていたくせに)。
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実際に読んでみると、金融業界にもっと手数料を落としてくれるように促すのが目的の報告書なのかという気がした。
それぞれの委員にはその人なりのスタンスがあるだろうから、十把一絡げに申し上げるのは失礼だが、ワーキンググループを構成する委員のうち、金融業界の人々にはそういう思惑があったのではないか、そして、もっとも声が大きかったのはその人たちではなかったのかと邪推?してしまわざるをえない。
報告書には、「運用」とか「投資」とかいう言葉が、これでもかというほどわんさか出てくるが、そういうことをしていくらかでもプラスになっている人は、私の周囲にはいない。
だからこそ「金融リテラシーの向上」が、これも何度も強調されているのだが、いくらきれいごとを並べたところで、ほとんどの庶民は、ただでさえ少ない老後のための貯蓄を減らして終わるだけなのは目に見えている。
そうとは知りながら、「もしかしたら自分だけは・・・」と考えるのが人間の愚かなところで、この報告書の罪はむしろ、国民が損をして金融業界が儲かる「運用」とか「投資」とかに人を駆り立てているところにあるのではないかと考える。
だから受け取らないというのなら、それはもしかすると一つの見識かもしれないと思うんだけれど、「貯蓄から投資へ」を高らかに歌い上げているのが安倍政権だから、この報告書はその方向性とぴったり一致している。
せっかくみごとに忖度したのに、別のところで足をすくわれたというところだろうか。
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これを書き始めた動機は別のところにあるのだが、ここで紙幅(そんなものないけど)が尽きた。続きはまたいずれ。
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