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2020.07.13

●『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹

 本を読まなくなった。

 映画は毎日のように見ているのだけれど、本はダメだ。

 脳が劣化して文字を受け付けないのかとも思ったが、連日ネットや新聞の文字を大量に読んでいるので、そういうことではなさそうだ。
 ただ、「情報」は読んでも、それ以上のものはしんどくなっている可能性はある。
 iPhoneのアプリでいちばん利用しているのは、SmartNews だが、Screen Time で調べると、2位のアプリの十数倍の時間を費やす圧倒的1位だ。読んでいるのはほぼ「トップ」と「まとめ」だけである。

 パソコン(や新聞)の方は少しマシで、小難しい評論なんかもけっこう読んでいる。
 でも、少し読んですぐ引き込まれるような、よくいえば文章のうまいものしか読まなくなっている気がする。目に入る文章の質の平均が(たぶん)下がっていることも影響しているだろう。

 であれば、ある程度の質が保証されている(はずの)本をもっと読んでもいいと思うのだが、どうもその気になれない。なんとなく、コストパフォーマンスが悪いような気がするのがいちばんの原因かもしれない。
 いま、「コスト」と書いたときにもっとも念頭にあったのは「時間」だが、それ以外にも、金銭と置き場所の問題も大きい。

 そして、文字が小さくて眼にやさしくないことも大きな原因だと思う。
 昔やっていたような、寝転がって眼鏡なしでは読めなくなったし、iPhone や Mac ならいくらでも文字を大きくできてフォントのデザインもすぐれている。
 また、一般的な単行本よりも、新聞の文字の方がはるかに大きくて読みやすい(面積あたりの文字数はそれほど変わらないのに!)。

 もしかすると、文字を読みやすくしてくれるだけで、いまよりは本を読むようになるかもしれない。
 (あ、iPad で本を読んでいないんだから、ダメだな・・・)
 ___

 前置きが長くなった。

 そんな状態ではあるが、村上春樹(まだまだご存命だが、もう敬称抜きでいいのではないか)の本はたぶんだいたい読んでいる。
 標題にした『猫を棄てる 父親について語るとき』をきっかけに、『村上春樹 雑文集』というのを読んだかどうか気になって本棚を見てみたら、やはりというか存在していた。
 今週は『一人称単数』も発売される。

 『猫を棄てる』は、とうとうというか、村上が父親に向き合った随筆?だ。
 いま、「正面から向き合った」と書こうとしてやめたのだが、まったくもって正面からは向き合っていない。肝心?の、父と息子の確執が、精神面からまだ?具体的に書けないようなのだ。
 この本はハードカバーではあるものの、B6判と新書判の中間くらいのあまり見ない判型で、イラストを含めても100ページに満たない小品だが、いつか亡くなるまでには、ご尊父と正面から向き合った大作を書いていただきたいと思う。

 『猫を棄てる 父親について語るとき』という題名だけから想像したのは、泣いて嫌がる村上少年の哀願をものともせず、非情に猫を棄てた冷徹な父親像なんだけれど、まったくそういう話ではなかった。

 それはともかく、村上家にはいろんな猫が入れ替わり立ち替わり飼われていたようなのだが、その記憶がいちいち曖昧なのがおもしろい。

 うちはそれほど動物を飼わない家だが、それでも、鯉やら金魚やら文鳥やらを飼っていた。それらがどうしてうちにやってきて、どういう最後を迎えたかは把握している。
 つまり、うちの息子にとっては、少なくとも父親である私に尋ねさえすれば、曖昧になることはない。

 ただ、私の実家は、インコやコリーやジュウシマツやベニスズメやマルチーズやシーズーなどを飼っていたが、トラウマティックな記憶であるベニスズメと、比較的最近のマルチーズを除き、最後がどうなったかは記憶にない。入手の経緯はどれも不明だ。
 子どもの記憶というのはそういうものかもしれず、村上の記憶が曖昧なのは、尋ねる父はすでに亡く、母の意識も混濁の中にあるからだろうか。

 うーん、でも、90歳になるうちの父親は、まだ何とか働けそうなほどしっかりしているが、飼っていたペットのことを聞いても覚えているような気がしない。
 私自身、もう20〜30年経てば、うちで飼っていたペットの記憶がなくなるのか、それとも、父親がそういうことにあまり関心がないのか、いや案外、実際に聞いてみれば覚えているのか、わからない。

 週末に会う機会があるので聞いてみようと思う。

 父の人生は村上千秋さんのように波瀾万丈ではないし、仮にそうであったとしても、私にはああいう文章はとても書けないけれど。

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