■兵庫県三田市の母子大池は一周できません
兵庫県三田市の母子大池(もうしおおいけ)を一周しながら、「母子大池は一周できますがお勧めしません」という文章を書こうと考えていた。
比較的整備されたハイキング道のような道が池を囲んでいるのだが、倒木をくぐったり跨いだりが20〜30回、川(というかせせらぎ)を渡るのが数回、そして、半分を過ぎて、これなら一周できるまで道が続いているだろうと確信を持てたころに現れたのが、鹿よけのためとおぼしき網であった。
ここまで来て引き返す手はないと思って何とか網を跨いで進むと、その後に同じような網が10回ほど行く手を阻んだ。
歩くのに必死で周囲を見回す余裕はあまりないが、それでもキツツキのドラミングや、センダイムシクイ・ホトトギス・ツツドリの声を聞きながら自然の中を歩くのは悪くはない。
ばさばさっともの凄い音がしたと思ったら、私に驚いたカルガモが飛び上がって逃げていくところだった。
同じように、蛇やトカゲも慌てて池に逃げていくことがあった。
ときおりドボンドボンと音を立てているのはカエルであろうか。
話は戻るが、せせらぎは、どうしても水の中を歩かないと渡れないところが2箇所はあった。そして、プラスティックの筒でできた黒い一本橋を渡る必要にも迫られた。細い丸木橋?を渡ろうとしたら、向こう岸側でボキッと折れたりもした。
極めつきは、鹿よけの?網。お勧めしない所以である。
だが、これほど整備された(ように見える)道があるのだ。しょっちゅうだれかが歩いていないとこうはならない。まあ、これから夏になると、草木が繁ってますますお勧めできない道になりそうではある。
「水源涵養林」や「保安林」の表示があったが、作業の人が頻繁に歩くようなところではない。いったいだれが歩いているんだろう?
困難や苦労から逃げまわり続けている私の人生において、十指に入るくらいの冒険であった。
なにせ、どこまで道が続いているかまったくわからないのだ。倒木や川や柵や崩落や・・・で行く手を阻まれれば、えんえんと元の道を引き返すしかない。
だがまあ幸いなことに、2時間近く四苦八苦して、やっとスタート地点まで戻れた・・・と思った。
「一周できた、引き返さなくてすんだ・・・」という喜びはひとしおである。
ところが、最後の最後に大きな罠が待っていた。
5mほど前にいる親子連れ、10mほど先に見える自分のオートバイとの間には、絶対に誰も通さないぞと頑固に主張する柵があり、それを乗り越えたとしても、またすぐ先に有刺鉄線があるのである。
柵にはこちらからは見えない看板があったので、身を乗り出して裏側を見ると、「立入禁止」とある。
いやいやいや、ここに来るまで、立入禁止はなかったのだ。ここから出られないなら、私が来た方もきちんと立入禁止にしておいてほしい。
そうはいっても、ひと一人くらいならどこかから出られるだろうと高をくくっていたが甘かった。柵はあくまで徹底しており、先に進んで門を見つけても、チェーンに南京錠がかけられていた。その先にも柵は続いている・・・
いやしかし、苦労してやっとここまでたどりついた道を、またこれから2時間かけて引き返すという選択肢はどう考えてもない。
時刻も16時30分になろうとしているし、それよりなにより、オートバイまではたった10m、それと私を隔てる川にも、今日いちばん立派な橋が架かっているのだ。以前は、この橋を渡ってこちら側からも一周散策ができていたのだろう。
しばらくうろうろしたり考えたりしながら、とにかく何とかこの柵と有刺鉄線を超えるしかないと腹をくくった。
結果としてはたいしたことはなかったが、なんとか柵を超えられるところを見つけ、有刺鉄線はくぐることができた。
倒木くぐり(またぎ)や一本橋や渡渉や崩落や網や柵や有刺鉄線を乗り越えて、完全に無事に戻れたのはちょっと奇跡的な気がする。
つい最近、「ため池に落ちると命はない。泳げるとか泳げないとかの問題ではない。岸にたどり着いても陸に上がれないのである」という記事を読んだばかりだ。
このため池も、いかにも上がれなさそうな岸だし、携帯はほぼ圏外である。短い散策路を外れてからは、まったく誰にも会わなかった。
下手をすると、誰にも知られずに、ここでひっそりと死んでいたかもしれない。
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母子大池は一周できません。ロックフィルダム?の上から少し奥に入って雰囲気を味わい、引き返してくるのが吉です。
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